パイロットの創業者は、東京商船学校の教授であった並木良輔です。
彼は万年筆用の金ペン先の製作に成功したのをきっかけに、同校出身の和田正雄の援助を受けて、
1918年(大正7年)に株式会社並木製作所」を設立、国産万年筆の製造販売を開始しました。
場所は日本橋西河岸です。これが現在のパイロットのルーツとなっています。
1926年(大正15年)には、和田・並木の両名が万年筆の本場である欧米を視察します。
そこで、奈良時代から続く日本の伝統工芸である蒔絵を、軸の装飾に施した万年筆が高い評価を得ます。
ここで、パイロットの蒔絵万年筆の美しさが、世界共通の認識であるということが証明され、
パイロットの代名詞となっていきます。1910年には、ロンドン海軍軍縮条約の署名に、
参加各国の権利者が署名をするのにも、この蒔絵万年筆が採用されています。
蒔絵とは、塗料であると同時に接着剤である素材、漆を、木材などの対象物に
筆で絵を描くように塗っていき、その上に金粉を蒔くことで、漆で描かれた部分だけに金粉が付着し、
金で描かれた美しい絵を生み出す技法です。漆の陰と金の陽で表現されたその世界は、見るものを引き込みます。
この日本古来の芸術が、万年筆と組み合わさったことで、万年筆の装飾の歴史に新たな1ページが刻まれました。
その功績を果たしたのが、他ならぬパイロットなのです。
パイロットでは蒔絵万年筆のほかにも、和のテイストを存分に盛り込んだ万年筆を世界に送り出しています。
例えば、カスタムえんじゅ(木偏に鬼)では、軸とキャップの素材に仏教建築の装飾などに用いられてきた
えんじゅの木を採用することで、自然と調和しながら和やかな心持を与えてくれる寺社の荘厳さを
書く人の手元に寄り添わせることに成功しています。古くから出世、魔除け、長寿の縁起木として
珍重されてきたえんじゅを用いたこの万年筆は、ご自身で使用されるのはもちろん、贈り物としても最高の一本です。
もうひとつ、パイロットの和のテイストが発揮された万年筆が、エラボーです。
そのコンセプトは、「日本語に適した万年筆」。西洋の文字を書く場合はファインでかっちりした書き味が適していますが、
日本語ならではの美であるとめ、はね、はらいを表現するのには若干の難しさがありました。
エラボーは、ペン先にダイナミックなうねりをつけることによって、適度なしなりをペン先に持たせ、
とめ、はね、はらいの表現を、まるで毛筆を用いているかのように再現した意欲作です。
ペン先をうねらせながらも、インクは滞りなく供給されるという技術の高さも、
いかにも日本の魅力が現れていて素晴らしいと思います。
昨今の日本では、グローバル化に伴って、日本文化の美しさを発信することが盛んに行われていますが、
パイロットはその取り組みを、100年前から行っているともいえます。まさに社名の通り、
先陣を切って潮流の先を見通すパイロットといえましょう。